先日、弊社襖引き手ショールーム祗園【京烏】がNHK World Core Kyotoの取材を受けました。
京都の文化を伝えるという事で、様々な京都の今昔が放映されます。
今回は襖絵を中心とした襖に纏わる背景、つまり絵師、表具等の職人さんや使われてる場所(お寺)等を世界に発信するという回です。
日本では地上派での放送はなく、飛行機内及びストリーミングでの放送です。
ただ、海外100カ国以上で放映される番組で、数億人の目に止まります。
取材を受けるに至った経緯は端折りますが、お電話を頂いた際に「本物の職人さんを紹介して欲しい」という依頼を受けました。
どちらも京都が誇る、表具師、引き手職人さんをアテンドさせて頂きました。
その中で京烏も襖の引き手のショールームとして、取り上げて頂きました。
襖を用いる空間、即ち和の空間が、日本国内で失われています。
現代の日本は生活様式やコストの関係で洋の空間、建築が多くを占めています。
しかし、海外の方は町屋や数奇屋、寺社仏閣等の和風建築を求めて来日します。
ここに何となく矛盾を感じてしまいます。
ずっと思っている事があります。日本はもの作りの国です。
世界に誇れる技術や芸術が発展してきたのは言うまでもありませんが、全ては職人やデザイナー等、個人が知る事から始まります。
面白い素材、仕上げ、機能、そして、それを詰め込んだ製品。
予算が無限であれば、幾らでもお金をかければ宇宙にも行けてしまう時代ですが、家を建てる際は無尽蔵にという訳にはいきません。
そこで、必要になるのが「流通」だと考えています。
1人で宇宙旅行に行ったら100億円かかる所が10人で行ったら10億円、100人で行ったら1億円、10000人だと100万円でいける。
これが流通業の本質で、必要なのは色んな人に喜んで貰える仕組み作りです。
金物卸河長の初代、河内屋長兵衛もそうですが近江商人の心得 「三方よし」です。
老舗と言われる金物卸がギャラリーBARをやっている。
そこで落語やお笑い、音楽やポップアップショップ、金継ぎ教室、異業種交流会・・・いったい何がやりたいの?
という事を2年間の間で何度も聞かれました。
その度に「金物を売る為に」と答えてきました。金物屋ですから。
お笑いも、もの作りも、メディアも、とても小さなコミュニティですが情報とお客さんをシェアできるはずです。
すぐにお客さんにならなくても、どこかのタイミングでお客さんになるかもしれませんし、パートナーになるかもしれません。
私個人は金物を売るために、ですが、この場所を通じてよき出合い、ご縁があればと思っています。
勿論、産業を盛り上げる事が最大の目標です。
我々、部品屋はモノヅクリする人がいないと存在する理由がありません。
風が吹けば桶屋が儲かるといいます。
僅かな事でも風を作る事が、モノヅクリ界の、そして金物屋としての自分の為だと思っています。
とは言っても一人でできる事も限られています。
大きな事は先生と呼ばれる方たちに任せておいて。
隣にいるモノヅクリの人達の可能性を探り、交流や情報交換の場所を作り、メディアと交わりそれぞれのビジネスに繋げてもらう事。
新しくもの作りを生業としようとする人達の、プラットフォームとなる事が役割と思ってます。
これが長期的に見て産業が盛り上がる、という確信をもっています。
その中でNHKを通じて、そんなコンセプトを込めた場所が世界に発信できた事は、象徴的な出来事でした。
この考え方は現代のビジネススピードと比べると、全く以ってスローでアナログな考え方です。
真逆のネットショップを運営していて思うのです。今の流通は消耗戦で、戦争のようなものだ。
真摯に向き合えば、市場のシェアを取り合い、同業者が潰れればライバルが減ったと安心するような世界。
これって、先に書いた流通本来の役目(三方よし)じゃないと思うんです。
(とは言うものの、悠長な事を言うてたら自分が潰れてしまうので、できる範囲の事はやりますが。)
悲しいかな、流通の歴史の中で供給する側が増えすぎて、消費、需要が追い付かないというのが現状だと思います。
逆の存在として小さなコミュニティで色んな可能性が生まれる場所にしたい、という場所が京烏です。
京烏には、現在進行形で職人さんや作家さんとして、頑張られている方が遊びに来られます。
現在40歳になろうとする我々の世代は、ギリギリ生活できる様な状況の方が多いです。
モノヅクリを志す、これからの学生さんやもっと若い子達はどうでしょうか?
少ないルートで、少ない情報で、生活していけるだけの稼ぎができるでしょうか?
伝統工芸やモノヅクリの危機と言われて、それなりの年月が過ぎました。
廃業される職人さんを沢山見てきました。
跡継ぎが居ない、しかし雇える余力はない。
マイナーチェンジして存続している会社、独立して始める方、色々見ていますがどこも大変です。
職人を目指したくても、目指す土壌がない、つまりは技術が失われる。
モノヅクリの国の日本で。
観光資源としてのお城や寺、有名な茶室も誰かが作り、設えをしたからこそ年間何百万人と訪れます。
建物だけでなく、釘隠しの金具、襖絵、掛け軸・・・細部までの設えは色んな職人さんの仕事を産みます。
そして創造物に価値が生まれる事で経済がまわります。
つまり、ゼロから1を産み出す人が【和の色】を加えて頂く事で、色んな方の仕事を生む事になります。
是非、設計建築の方にはそういった力があり、できる存在である事を改めて思い出して欲しいな、と思っています。
その為には知る事が大事です。
なので、今回の様な機会を頂けた事がとても嬉しく思います。
これからも京烏では引き手に限らず、色んなイベントの中で、日本の伝統的なモノヅクリを少しずつ情報発信していきたいと思っています。